日本ならではの様式美と坂本龍馬
僕たちはショップでありながら、別注商品やオリジナル商品の企画や開発も行っている。
だから商品を選定するときには、使われているパーツの形状やデザインの年代、素材の加工や出どころまで細かく見てしまう。
そうすると、極まれにその全てに理由を持つモノに出会うことがある。
それがローリングダブトリオだ。
このキャスパーはそんなローリングダブトリオで最もスタンダードなブーツ。
最大の特徴は1枚革で作られていること。
例えるなら、革の足袋。
革というよりは"皮"膚に近い、そんな履き心地だ。
つなぎ目による凹凸が無いから足当たりがとにかく良い。
変な靴擦れも無い気がする。
さらに違いが現れるのが履き込んだ時。
繋ぎ目があれば履きシワもそこで途切れてしまう。
ところがこれは途切れていないから、ダイナミックなシワが生まれる。
これがたまらなくカッコいいのだ。
つま先には型崩れがしにくい様に芯材が入っているけど、スチールではないから軽く柔らかい。
さらに驚きなのが、ジッパーを使用していること。
サイドジップはブーツラバー達の間で邪道とされてきた。
ジッパーを使うことができなかったから、シャフトは太かったし脱ぎ履きもしづらかった。
それを圧倒的なこだわりでアリと認めさせたのがこのキャスパーだと思う。
細いシャフトと滑らかなシルエットは最高に艶っぽく、ジッパーとプルストラップで脱ぎ履きに我慢も必要ない。
そのルーツをアメリカやヨーロッパに持つブーツは多い。
ところがコレは日本人デザイナーが日本で作ってる。
日本は欧米と違い、靴を脱ぎ履きする機会が多い。
だから日本ではこのサイドジップが理にかなっているのだ。
実際に僕が初めてキャスパーを目にしたとき、頭に浮かんだのは日本で初めてブーツを履いたと言われている坂本龍馬だった。
それは前衛的でありながら、伝統的。
日本ならではの様式美が誇張されることなく、自然に表現されている。
使用しているジッパーもYKKエクセラと只者ではない。
通常のシングルのツメのものと違い、エクセラのジップは密閉度が高く風や水の侵入を防いでくれる。
数あるYKKのジップの中でも最高級のラインだ。
スライダーはオリジナルで刻印入り。
引き手は輪っかの部分をスライダーに通してから溶接して取り付けるという徹底ぶり。
とても丈夫で引き手が千切れたり捻れたりする心配がない。
アウトソールは濡れた路面でも滑りにくいコルク。
雨の日でも問題なく履くことができる。
さらにクッション性がアリ、柔らかく返りがあるから履き心地も良い。
つま先に配置したトゥスチールは最も減りやすいつま先を保護してくれるから、摩耗しづらく長く楽しむことができる。
ヒールパーツは枯山水をイメージしたオリジナル。
1950年代のブーツに使用されたカナダのキャッツポーを模していながら、日本特有の文化を描いている。
細部へのこだわりを強く感じるディテールの1つだ。
使用している革は2種類。
ホースレザーはダイナミックなシワが特徴。
しかも茶芯。
シボの大きさが不規則で複雑で、エイジングが最も楽しい革だ。
二つめはホーウィン社のクロムエクセルレザー。
革好きならもうこれだけでたまらないはず。
味の出方が均一で、柔らかくしっとりと履きやすい。
モノの価値は様々だ。
人によって感じ方も違う。
でもこのブーツの価値は限りなく普遍的だ。
例えば、博物館に展示されていても、高級メゾンに展示されていても、ワークブーツとして展示されていても。
その売り場や環境にとらわれず等しく価値を感じることができる数少ない靴であるといえる。
存分に履き込んで、存分に楽しみたい一足だ。